「あんたなんか…死んじゃえばいいのよ!」
そうかもしれないなぁ。
あれから六時間、気が付けばDVDのキャラクターであるエリスに返事しているほどに精神が病んできてる。
時間は既にもう夜の十一時を回っていた、本来リチェルカーレは昼十二時開店の夕方六時閉店のはず
・・・やはり凄いな天城さんは、あのオタク連中と話が合うって言うんだから。
オレだったら間違いなく五分と話がもたないと思う。
結局天城さんが帰ってきたのはそれから更に三十分ほど後であった。
「いやすまなかったな恭治、だいぶ待たせてしまったな」
「いえ大丈夫です」
黒革のソファにどっしりと深く座り込みタバコを吹かす天城さんはカリスマ性たっぷりだが
すぐ後ろ42型ワイド液晶テレビで流れているDVD「魔法少女エリス」のおかげでその全てが打ち消されていた
「ああ、それで修行のことだが」
「そのことなんですけど先に一つ聞いても良いですか?」
言葉をさえぎる無礼を承知で恐る恐る尋ねる。
天城さんは天城さんだ、それは一年前から変わっていない。オレが憧れた硬派のカリスマ
高校一年で総番になり、高校二年で県内制覇、高校三年で全国を制覇したあの天城さんだ
それは間違いない
だが・・・だがこの萌えだのなんだのってのは硬派とはまるっきり違う、かけ離れている!
修行はする、修行はするけどもなんでこんなことになっているのかここだけははっきりさせておきたいんだ
「まぁ言いたいことがあるならいいぜ、言ってみな」
「あ、あのですね・・・ちと言いにくいんですけど、えっと・・・」
「店長おまたせしました♪黒き魔女の呪いですっ」
ちょうど言葉を発しようとした矢先五葉がトレイに例のホットコーラ二つ乗せて入ってきた
全くなんと言うか間が悪いな、というかホットコーラがメインになっているのも聞き出したいところだなこれは
「そうだちょうどいい、五葉もここに座ってくれるか?恭治が言いたいことがあるらしい」
「はいわかりました店長」
テーブルに二つのホットコーラを置くとちょこんと五葉はソファに座った。硬派のカリスマ
の隣にメイドさんが座っている、やっぱり異常な光景だ。
「で、言いたいことってなんだ恭治?」
「えっとなんていいますか、物凄くシンプルなことなんですけど・・・」
もう言ってしまえ、どうなってもしらない
「天城さん、なんでメイド喫茶なんてやってるんですか?」
なぜかしばらく事務所内に沈黙が流れた。
ただ液晶テレビ内のエリスだけが空気も読まずに喋ってはいたがな
「なんだそんなことが聞きたいのか」
天城さんはタバコを一口吸うと溜息をつくように吐き捨てる。
「単純な話だ、また全国を制覇したくなったってだけだ」
「全国を、ですか?」
「ただ普通にやっても面白くねぇ、そうだろう恭治?」
天城さんの口元がワルっぽく歪む。いやいやでもだからってメイド喫茶はどうなのかと
オレ自身思うのだけど・・・まぁ硬派なので言わないことにしよう。
「以前のリチェルカーレでは底が知れている、そこで考えたのがメイド喫茶さ。でな、この“萌え”っていうのは底が知れねぇ、ビジネスにしてみりゃなんであんな連中が?って奴らが金を大量に持っていてしかもそれを惜しげもなく“萌え”に投資する・・・どうだ面白いだろ?」
「それはまぁそうですけど、いかんせんオレには萌えっていうのがよくわからないというか」
天城さんの言うことは理解できる、だが今まで硬派を目指してきたオレにこの“萌え”なんてものは受け入れがたい
「だから修行するんじゃねぇか。硬派ってのはないついかなるときも動じてはならないんだよ、動じるってことは隙を見せるってことだ・・・戦場じゃその一瞬の隙で死ぬぜ?」
言葉だけなら恰好良いんだけどこれが萌えに対して動じてしまったことに対する事だと思うとなんとも情けない
「確かにそうですね、それで修行っていうのはどのような?」
「そのことなんだが」
天城さんは一度五葉を見るとなにか合図をするように頷き
「しばらく五葉と一緒に暮らしてもらう」
またもとんでもないことを言い出した。
「な、なるほど・・・。」
なんとか表情には出さずに返答する。
そろそろもう“嫌な予感がした”ってパターンはしないししたくない
・・・が、当然ながら心の中では動揺が止まらない。
なんだ一緒に暮らすって!?
チラリと五葉を見やる、目が会うと彼女は静かに笑みを返してきた、なぜこの子は笑えるのか不思議だ、こうゆうとき普通は女の子が反対するものなんじゃないんだろうか
これはもう天城さんと五葉の間でもう話が付いているのは明白だな
「当然なことだがもし五葉に手を出したらバラバラにして山崎川に流すからな」
「それは重々わかってます」
「それじゃそうゆうわけだから後は若い二人でよろしくやってくれ、俺はDVDを見るのでこれから忙しいしのでな」
口早に天城さんは言うとすぐさまDVDの方へ向きなおした、よっぽど見たかったらしい
この「魔法少女エリスDVD11巻、だいぴんち!敵は新人!?」ってやつが
「・・・・・うむ」
様子を伺うように五葉に目配せして見る、五葉は可愛らしく軽く小首を傾げて微笑む
「それじゃ行きましょうか御主人様」
「あ、ああ」
言いたいことが山ほどありすぎて正直もうどうでもよくなってきた
オレのことを御主人様なんて呼ぶメイド服を着たこの子と同じ部屋で過ごす、今回の修行はやり遂げられるんだろうか
喫茶店「リチェルカーレ」は一階部分に喫茶店その奥にキッチン、事務所とあり事務所の横の階段から上にあがると風呂場といくつかの部屋がありその一番奥に五葉の部屋はあった
八畳ほどの部屋にベッドとクローゼット、小さなテレビとペンギンのぬいぐるみ、意外と普通の女の子の部屋だ、メイドなんてやってるんだからもっとこうなんかアニメや漫画が溢れかえってたりするものかと思っていたんだがな
「ここが私の部屋です、あの男の人が入るのって初めて何でえっとあの・・・」
天城さんがいないからか二人っきりになったからか五葉は歯切れ悪く言葉を濁す、オレもそうだが五葉も五葉で緊張しているんだろうな
「いや、オレのほうこそいきなりこんなことになって申し訳ない」
「いえいえ!!謝らないでください、御主人様は悪くないですよ!」
五葉は小動物のようにフルフルと可愛らしく首を振る。それはいいんだがこの修行をしてく
上で言っておかなければならないことを早いところ言っておかなければ
「あのさ、音瀬さん」
「は、はい!なんでしょうか御主人様」
・・・気が付いてないみたいだから放っておくかなんて邪念が出た。いや一種の征服感というかなんというかいやこれは雑念だ雑念、硬派じゃない
「ごめん、その御主人様って呼ぶのはさ、オレ御主人様じゃないわけで」
そこまで言って五葉はようやく「あっ!」と気が付いたようで
「すいません神楽坂さん、お店の感覚で話しちゃって」
「いやまぁ、ちょっと気になって・・・」
「いえ、それでしたら私のことは五葉って呼んでください、私の兄弟多いから苗字だと反応できないんですよ」
「そ、そうなんだわかったよ、とりあえずこれからよろしく五葉」
「こちらこそよろしくおねがいします神楽坂さん」
向かい合って二人揃ってペコリとお辞儀する、お互いの名前を呼んでなにやっているんだろうこの状況。しかもさっきから突っ立ったまんまだし。
「・・・・・・・・・。」
そしてそれから向かい合ったまま沈黙、どうしようどうするべきなんだオレは?
「えっと、あの神楽坂さん?」
それからしばらく、いや大して時間は経ってないんだがオレには凄い長さだった時間が過ぎて話を切り出したのは五葉のほうだった
「あの神楽坂さん、一つ聞いていいですか?」
五葉はオレと目を合わせることなく独白するように言葉を漏らす、その様子にオレはなにか
ただならないものを感じた
「ああ、オレに答えれることなら」
「それじゃあの・・・私の“おまじない”効果ありましたか!?」
おまじない?おまじないっていうとあれかクオーキクオーキなんちゃららって少しだけ幸せになるとか言うあれか
効果なんてなかったな、うんむしろ逆に悪いことは沢山起きた気がする
「いやこれといって効果はなかったかな」
「そうですか・・・」
五葉はがっくりと肩を落し目に見えて落胆しているのがわかった、ここは嘘でも幸せになったっていうべきだったか
「やはり不完全なおまじないだと効力を発揮しないみたいですね」
「はは、不完全とかそんなの関係ないんじゃないかな?」
やれやれなにを真面目に考察してるんだ?
まさか本気でおまじないなんかで幸せになれるとでも思っているんだろうかこの子は?
だからおまじないなんかで幸せになれるわけなら全世界の人が今頃・・・
「そんなことないです!お母さんのおまじないは本当に幸せになれるんですよ!」
言葉には出していなかったが五葉が呟いた一言がさっきまで考えていたことをピタリと止めた
「お母さんのおまじない、なのか?」
「はい!小さい頃お母さんによくやってもらったんです!そうしたら本当にいいことがあって・・・だから私このお母さんのおまじない大好きなんですっ」
おまじないのことを語るときの五葉は子供のように無邪気でそして今日見た中でも一番美しくオレの目には映った
───オレのなかのなにかが弾けた気がした
五葉が一生懸命自分の、そしてお母さんのおまじないについて語っている
それから五葉の言葉にオレはただ小さく「そうか」としか呟けなかった。
馬鹿にしてたさ、ああ馬鹿にしてたなオレは物事の本質も見抜けずに
メイド服なんてものを着たこの女の子、音瀬五葉のおまじない
オレからすればそれは本当にただのおまじないに過ぎない、けど五葉からすればお母さんの
大切な思い出だ
それを馬鹿にしてたとは全然硬派とは言えないじゃないかオレ・・・
知らなかったとはいえもうその普段の心構えから硬派とは言えない
『もし万が一失敗したら全力で速やかにそれを補う行動を起せ』
天城さんの言葉が脳裏をよぎった
オレにはなにができる?オレはなにをすればいい?
考え抜いて出したこのときの言葉がこれからのオレの物語を運命付けることになる
「完全版のおまじないやってみないか、できるんだよね?」
「えっ、完全版ですか・・・できますけど、えっとそのわかりました」
一瞬とまどったように見えたがすぐに五葉はちいさく頷いた
だがこのとき気が付くべきだった。
『なぜ五葉が不完全なおまじない』しかしていなかったことを、一瞬五葉が躊躇ったことを五葉は指をもじもじさせながら一呼吸置くと
「それでは、失礼しますっ!」
と、なぜかオレに抱きついてきた。
「ちょちょちょななななななななななにしてる!?」
流石にもう動じないとおもった矢先にこれか!というか誰だって動じるだろ
「なにって完全版のおまじない、ですよ?」
顔を赤らめながら抱きついてる五葉、そりゃ店でこんなおまじないすれば阿鼻叫喚の状況になるだろうなだから不完全なやつしかやらないわけか
しかしさっきから胸が当たってるし女の子特有のいい香りが理性を無くさせる
まずい、この状況は黙って胸を貸していると思えばなんか硬派っぽいけど誰もそうは見てくれないだろうなぁ
「後はおでこをくっつけて『クオーキ クオーキ キワラケチ ラサキト ラサキト サイケスタオ』って唱えるんです」
「わ、わかった」
爪先立ちで五葉の顔がぐっと近づく、もう難解なおまじないにツッコミを入れる余裕もない
そりゃ親子ならこんなことしても全然問題ないだろうが年頃の男女がやるとここまで大変なことになるってことだな
して、こうゆうときどうすればいいんだ?正直に言うと生まれてこの方女性とこんなことになったことがないんだが肩とか抱いたほうがいいんだろうか
今のままじゃ両手に鞄を持ってなんか滑稽な姿だが・・・そんなことをする余裕もやっぱりなかった
「そ、それじゃ準備はいいですか?」
「お、おう」
ぎこちない問いかけにぎこちなく答える。おでこがついてるってことはもうキス間近ってわけで濡れた唇が目に入るわ、甘い吐息を感じるわ
これ以上やってたら理性が吹っ飛んじまう
「「クオーキ クオーキ キワラケチ」」
五葉の言葉に合わせるように言葉を呟いていく
「「ラサキト ラサキト サイケスタオ」」
二人のおまじないが終わる、もちろんなにも起きるわけがない・・・がそれでいいんだ
それがオレが選んだ茨の道なんだ
「あの、ありがとうございます神楽坂さん」
顔を真っ赤にしながらペコリとお辞儀をする五葉を見て思った
そんな茨道もそんなに悪くない
だが冷静になってみてこれから本当にどうなるんだろうな、オレは
「なんか少し幸せになった気分だよ」
とりあえずそう言ってみた、無理な笑顔を作りながら
苦笑いになってなければいいんだけどな
はいそんなわけでメイド服とおまじないその6、一応第一話はこれでオワリ(伊藤順二風にいうと)
そんなことよりシャナみたいなアイキャッチマダー(ジャラララララララダラララン!!って奴
それは(つ´∀`)つ前にも言ったけど第一話にオチはないです、残念ながら・・・・
今回は時間に追われてカットシーンが多くて(´・ω・`)ショボーンです、でも前回、前々回は余計なシーンを入れたからどっこいどっこいかな
ちなちなちなみにカットしたシーンは
修行というのは釈迦がマーラに誘惑されていたのを耐えるのと一緒って説明されるシーン
五葉の部屋に着いたあとお風呂にしますか?それともお食事ですか?シーン
お風呂場にて五葉に「お背中流しましょうか?」って誘惑されるシーン
風呂場から部屋に戻る際「ここで普通に開けたら着替え中ってそんなワナには引っかからないぜ!!」っていうシーン
部屋は真っ暗、寝ぼけた五葉に迫られておまじないをするシーン
結構あるけどまぁようはおまじないしましたよ、ってわけです
痛いあとがきはまぁそのうち書きます、じゃあったかくして寝ろよー
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